債務整理コラム

それは本当にリンゴなの? 〜借金問題をこじらせやすい、ひとつの危険な考え 1

テレビ番組の中で法律をテーマにしているバラエティがあります。近隣住民から嫌がらせを受けた。遺産相続で親戚ともめごとになった。知人の大切な思い出の品を壊してしまった。そんなよくある話だけれどどう対応すれば良いのかわかりにくい事柄について、番組では、弁護士や法学者がクイズ形式で回答を述べるというものです。

法律相談を望む人の目的の多くはトラブルの解決です。とりわけ相続や不倫、近隣住民の騒音のように、私たちの生活の中で起こりうる可能性が高いものは、当然法的な解釈を必要とする割合も高くなります。テレビ番組では、このように身近な問題をテーマに扱うため、見ている側も思わず我が身のように聞き入ってしまい、次いで専門家の回答を聞いては「えー、そんなばかな」とうなってしまうのです。もちろん番組としては、これは十分に面白いものです。

しかし、法的な解釈を業務に扱う者として、忘れてはならないことがあります。それはいくら法律を扱ったテレビであっても、番組そのものはあくまでもバラエティの一種であるということです。バラエティ番組は「ショー」に過ぎません。そして法律を扱ったバラエティ番組の目的は、専門家の箔付けの上で、おもしろおかしく、意外な答えを出すことで視聴者に楽しんでもらうことにあるのです。

そもそも法律に正解はありません。いくらプロの弁護士が回答をしたところで、それをうのみにしてしまうと、実際に視聴者が似たような状況に陥った際、些細な状況の違いや法解釈によって、思わぬどんでん返しを食らう可能性があります。もちろんそうなったところでテレビ会社や番組製作会社を訴えたとしても「番組で採り上げた案件は可能性の一つ。なにより、これはあくまでも『バラエティ番組』です」で終わってしまうはずです。少々きつい言い方をしてしまえば、テレビ局は、たとえ法律の事例を採り上げたところで、それによって何か起こっても責任など取りませんといっているのに等しいのです。そして実は借金問題や債務整理についても、上記とまったく同じ問題が絶えず生じているのです。

借金の返済が滞ると債務者は大変な苦しみを味わいます。多くの債務者はこの現状をどうすれば脱却できるのか、反射的に情報を収集しようとするでしょう。その知識は読書が趣味ならば本屋に向かうかもしれません。しかし大抵の人は一人でこっそり、かつ無料で得られる情報としてインターネットを用います。インターネットは情報の宝庫。たとえば「借金 返せない」などと検索すれば、同じような境遇の人が大量に意見を発信し、中には債務整理を専門とする弁護士や司法書士の意見、果てはサラ金会社や債権回収業者の話まで目にすることができることでしょう。
今やパソコンを生理的に拒絶してしまう年配の方を除いた、若年層・中年層の債務者の多くがインターネットを駆使し、借金問題についての情報を大量に得ていることは間違いありません。その結果、たとえば借金に関しても一本化の方法を学んだり、支払いを繰り延べするためにリボ払いにしたりといったような知識を得る人もいます。また同時に債務整理に関しての様々な手法も十二分に学んだという人も少なくないでしょう。

では、この知識を実践してみるとどうなるでしょうか。結論から申し上げれば失敗します。まして借金問題において対処を誤るということは、これは言い換えれば人生に大きな痛手をこうむってしまうことと同義。たとえばインターネットの誰かの意見をうのみにして、借金をリボ払いにした場合、その凄まじいまでの金利の高さから多重債務者のほとんどは返済地獄に陥ります。結果、毎日毎日返済のことで頭を痛めつつ、最終的には破産というパターンになってしまうのです。また、債務整理に関しても「お金がないから自分で何とかできないかな」という人が特定調停を選びますが、この情報収集においても、インターネットで様々な情報を自分で集めたかたちで手続きを行うことがほとんどでしょう。しかし、結果的にはほとんどの債務者が中途挫折します。よしんば調停までこぎつけて、自分ではうまくいったと思ってもサラ金会社からすると内心で舌を出してニヤついているというパターンが非常に多いのが現実なのです。

ページの一番上へ