債務整理コラム

借金に対する「間合い」を養う

剣道をはじめ、各種武道には「間合い」という言葉があります。間合いとは、相手と戦うための距離感を意味します。たとえば居合道では、相手の刃が届く紙一重のところで抜刀の構えを取る形が存在します。これはこちらが攻撃を受けるギリギリの瞬間に反撃に転じる動作を意味するそうです。

平時は自然体で過ごしていても、自分が損失を被ると判断した瞬間、即座に自衛のための反撃に転ずる。これは借金問題においても通じる大切なことだといえます。

たとえば配偶者の義両親から理不尽な借金の申し出があった。もしくは一方的に借金を押し付けてきたという話は少なくありません。このような類の人間にはいくら道義を問いても、馬の耳に念仏です。筋道を立てて説得をしたところで、すぐに喚き散らされたり、意味のわからない逆ギレを起こされたりするのが関の山でしょう。

このような相手にはきっぱりと断りを入れる必要があります。もしそれでダメならば絶縁したり、場合によっては法的手段に訴えたりといった実力行使が求められるのです。

これは個人においても同様です。多重債務によって借金が嵩んだ結果、自分の生活がままならなくなる人は少なくありません。先の間合いでたとえれば、これは借金がいつの間にか自分の生存を脅かす位置まで迫ってきていることを意味します。借金が大きく嵩んでしまえば、債務者の家族や友人・知人にまで問題が波及する可能性すら否めません。もしヤミ金などの悪質な高利貸しにまで手を出してしまったのであれば、それはもはや確実です。このとき、彼らを守るためには、誰よりも先に債務者本人が自衛のための気概を持たねばなりません。

今あるものを失わない。これはお金を増やすことよりももっと大事なことです。人は誰であっても、人間関係や財産などが、将来的に目減りしてゆくことを想像すると暗澹たる気持ちに駆られます。逆に今が辛くても、将来的に希望の光が見えてくるのであれば、人は誰でも努力することができます。暗いトンネルがますます暗くなるのに対して、たとえ今が真っ暗でも遠くに出口の光が見えるのとでは気持ちの持ち方がまるで異なるのです。未来に対して明るい見通しを持つということは、現実的な行動にまで関与することなのですから、なるべく良い未来を得られるように努めねばなりません。

ともあれ、話題を戻しますと借金において悩みを抱えた場合、まずすべきことは今、自分に残されたものは何なのかを洗い出してみることです。資産はもちろんのこと、人との関わりや健康なども総合的に勘案してみることが大切です。実際にペンを取って書き起こしてみるとそれはよくわかります。絶対に失ってはならないもの。どうしてもというのであればいたしかたないもの。よく考えてみると不要なもの。価値があるように思えて実は切り捨てねばらないもの、その軽重は様々ですが、それらに優先順位を振ってみれば見えてくるものがあるはずです。

ここで勘違いしてはならないことは、今存在しているものに目を向けるということです。借金の額や未来の金利などは存在しないもの。「あのときパチンコで使ってしまったお金が残っていたらなあ」などと思っても時間の無駄です。

顕著な例としては、債務者の中には借金を財産と思い込んでいる人がいます。このような性向の人は、クレジットカードの限度枠が大きくなったり、またカードの枚数が増えたりするほどに自分の資産が増えたと勘違いするようなのです。しかし、これは本質的に間違いであるといわざるを得ません。なぜなら借金とは他人からお金を借りる行為ではなく、自分の経済的な成長に合わせたかたちで未来の自分から借入をする行為であるためです。

自分の存在とは、今この瞬間に存在するだけではありません。一瞬後の自分も、一日後の自分も今の自分と切り離されているわけではないのです。もしそうであったらそれは単なる他人です。一瞬後も、一時間後も、明日も明後日も、自分の存在はつながっています。人生が仮に80年だとしましょう。この80年という途方もなく長い時間をひとつなぎの存在として歩んでゆく存在、それこそが自分なのです。

そうしてもし膨れ上がった債務が本当に守らねばならない、家族・友人・健康などを侵掠するのであれば、他の誰でもない、自分自身が即座に立ち上がらねばならないことに気づくことでしょう。今ある大切なものを守る。そしてその決意が定まったときに手にする武器。それこそが債務整理なのです。

債務整理をはじめとする各種の法律やそれを扱う法律・法務事務所は、たとえていえば刀のようなものです。いかによく斬れる日本刀であっても、それを用いたいと願う、債務者本人が及び腰であっては斬れるものも斬れるはずがありません。

しかし、大切なものにキズが付いたり、または喪失したりしかねないと感じた瞬間、強い決意を持ってそれに手を伸ばすことができるのであれば、こと借金問題に関してそれ以上の深手を負うことはなくなります。

借金問題に関しては債務整理への着手が早ければ早いほど、キズは浅く済むということの本義はここにあるのです。

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