債務整理コラム
貸金業法の改正は「ゆでガエル」になりやすい
H22に施行された貸金業法の改正によって、いわゆるサラ金業界は大きな打撃を受けました。金融庁により、これまでグレーゾーン金利として用いられていた出資法の上限である年29.2%の金利が違法とされたのです。この結果、これまでグレーゾーン金利で融資を受けていた債務者は金利分をさかのぼり、払いすぎた分を請求することができるようになりました。いわゆる過払い金です。
貸金業法の改正と過払い金の訴訟によって、これまで高い金利で苦しめられてきた多くの債務者が救われることになりました。またそれにより、悪徳な消費者金融や厳しい取立てで有名だった消費者金融などは軒並み倒産するハメに陥りました。これまでの行いが悪徳であればあるほど過払い金の訴訟が増えたため、訴訟対応に四苦八苦しているサラ金を見るにつけ、市場の債務者たちは喝采を送ったものです。
しかし物事はすべて一面でのみ決め付けるわけにはいきません。もちろん一般の人からすれば、借金の金利は低いほど良いものです。金利が低ければそれだけ多くの額を借金することができますし、余裕を持って返済することができます。あこぎな消費者金融から苦しめられることもなくなりますし、何より必要なときに必要なお金を用立てることができるのですから、債務者の視点からすれば貸金業法の改正は素晴らしいと言ったところでしょう。
一方でサラ金業者からすると、金利を一方的に下げられると言うことは、これまで以上に信用できる人にしか融資をすることはできなくなることを意味します。この結果、債務者側が借りたくてもサラ金が貸してくれなくなる、いわゆる貸し渋りをせざるを得ません。実際、貸金業法の改正により、サラ金業者の貸し渋りが急激に増加しました。また過去十年にさかのぼって過払い金の訴訟ができるようになったわけですから、あまり資金に余裕のない消費者金融や過払い訴訟を圧倒的に抱え込んだ消費者金融などは倒産を余儀なくされてしまいます。
しかしサラ金とてただ指をくわえて傍観しているわけではありません。小口の消費者金融などは過払い訴訟をされるなどばかばかしいとばかりに次から次へとサラ金の看板を畳んでしまい、かわりにサラ金業者だったノウハウを活かして、闇に潜りつつ、今まで以上の高利での融資を行うようになりました。いわゆるヤミ金の増加です。
この流れにより、現在ではヤミ金はもとより、そこから派生したショッピング枠の現金化や金貨金融・押し貸しなどの犯罪が増加してきています。これらはある種、債務者の潜在的なニーズに対応した犯罪と言えます。
貸金業法の改正は債務者に一方的にメリットだけをもたらしたと言えるかどうかは判断の分かれるところです。メリットだけでデメリットの生じない法改正などは存在しません。たとえばこれまで借金をしたことがなかった人の場合、貸金業法が改正されて金利が安くなることで借金に対する敷居を下げてしまう可能性が挙げられます。またクレジットカードの金利が極端に安ければついつい手持ち金額以上の買い物をしてしまうこともあるように、個人消費のレベルでは金利が安い分、債務超過を起こしやすいデメリットも存在します。
これは「ゆでガエル」のたとえで考えるとすぐに理解できるはず。カエルをぬるま湯の入った器に入れ、そこからゆっくりと弱火で器をあぶるとどうなるでしょう。お湯が熱くなれば飛び出すかと言えばそうではありません。弱火で水温が少しずつ上昇してゆくと、カエルはその温度に慣れてしまい、そうこうしているうちにゆだって死んでしまうのです。
貸金業法の改正についてもこれと同じことが言えます。金利が高いのであればしっかりと計算をして、いつまでに幾ら返済しなければと考えるでしょう。しかし金利が安くなった分、ついつい買い物をしてしまい「この程度なら何とかなるかなと思ったけれど、月末になって、やっぱりならなかったのでキャッシング」の流れになりやすいのです。ここから多重債務の流れが始まりますが、多重債務になると同時に金利は恐ろしいほどの速さで膨れ上がってゆきます。この結果、再び破産者が続出すると言う悪循環も生まれるのです。
たとえばリボ払いのように高い金利であっても、しっかりと計算して月々の返済ができるのであれば借金は悩みにはなりません。逆に安い金利であっても「まだだいじょうぶ」とぬるま湯の日常を続けるのであれば、ある瞬間から「とてもじゃないけど払えない」となるのです。だからこそ、月々の返済計画はしっかりと立てるよう、心がけることが肝心なのです。