債務整理コラム
印象の壁を越えよう
自己破産については多くの弁護士・司法書士が口を揃えて「他の債務整理と比較して極端に響きが悪すぎる」と述べています。今でこそ債務整理もポピュラーにはなりましたが、一昔前に破産といえばほぼ自己破産。そしてまた、自己破産をするのは人生の落伍者の証であり、一度破産をした者は一切合財を国に接収され、アルバイトのような生活からやり直しをしなければならないと言ったイメージをいまだに多くの人が抱いているようなのです。
債務整理の手続きをする者からすると、自己破産には市井の人が漠然と思い描くほどのデメリットはありません。もちろん当面の間、クレジットカードは利用できなくなりますし、また信用情報機関に登録されるため、借金もしばらくできなくなります。しかし、日毎夜毎に借金取りに恫喝され、財布をひっくり返しても出てくるのは埃ばかりの生活と比較すると、その自由度は雲泥の差。自己破産後は借金取りが来なくなるため、何をするのも自由なのです。
逆に手持ちのお金がないからと費用を出し渋り、特定調停や任意整理だけを強行するとあまり芳しい結果にはなりにくい傾向があります。なぜなら特定調停や過払いを伴わない任意整理はたとえ最もうまく行っても、借金が完全に消えるわけではないためです。たとえば一千万円の借金の人が任意整理を行うことで五百万円まで減債したとしましょう。しかしそれでも残る五百万円を今後、五年なり十年なりで毎月返済してゆかねばなりません。かたや自己破産をしてしまえばその場で借金はゼロになります。どちらが良いかはもちろん時と場合によるでしょうが、たとえ借金が五千万円でも一億円でもゼロに戻せる自己破産のメリットは目をみはるほどに大きいのです。
生活しようにももはや借金しかない。しかしもはや借金すらできない。このような人々にとって救いの神となるものが自己破産。自己破産はその効果が非常に高いため、一度破産をするとその後七年間は破産することができなくなります。そう考えると国家が自己破産と言う債務整理について「自己破産」と言うネガティブな響きを残しているのは、どうしてもと言うときを除いてなるべく破産を回避する心情になるように促しているためかもしれません。
自己破産のイメージについてお話をいたしましたが、「印象」から連想されるイメージは意外に大きいものです。
たとえば夜中の空き家を探検するのはお化けが出そうで怖いものです。道ですれ違えば単なるおじさんでも、入社試験の面接官として目の前に座っている場合では、相手に対してガチガチに身体がこわばります。バンジージャンプをする直前には誰だって足がすくみます。この印象の壁は、他人事として捉えるのであれば、ちょっと勇気を出せばすぐに踏み越えられるような気がしますが、実はとても難しいものです。債務整理の相談に訪れられるお客様においてですら、どんな手段でも良いので自己破産だけは何とか避けたいと言う相談が少なくありません。
このような「印象」の壁をどうすれば乗り越えられるのでしょうか。ある大企業の役員は毎日高層ビルの役員室から、外の街を見下ろしています。彼らの目に映るのは町並みの綺麗さや今日の天気ではなく、自分の業種に関連する顧客がどれだけ街を歩いているか。いかに彼らを引き寄せてお金を儲けられるかなのです。このため、役員としてはその日一日の売上が三十億円であれば「少ないなあ……」とぼやき、再び眼下の町並みを眺めては儲ける算段を整えています。
三十億円の売上があれば、一人の人は一生遊んで暮らせます。しかし東証一部上場の役員はそれですら「少ないなあ」とぼやくのです。私たちはやれ自己破産だ、いや任意整理だと借金問題で頭を悩ませています。しかし市井の人間の年収の壁をゆうに超え、平均年収の十倍・百倍を稼ぎ出している人も世の中にはごまんといるのです。同じ人間である限り、やる気と手法さえ合っていればそれくらいは稼げるのかもしれません。であれば、自己破産においてをや、です。目には見えない印象の壁の一つひとつを発見し、乗り越えてゆくことで人はさらなる成長を得られるはずなのです。