債務整理コラム
泡を食うのは債務者だけではない
「泡を食う」と言う言葉があります。びっくりしてあわてる様を表現した慣用句です。借金を滞納し、後で返せばいいだろうと思っていたにも関わらず、消費者金融側が迅速に取立に来た場合などはまさしく「泡を食う」と言うことになるでしょう。
取立屋からしかつめらしい表情で「どうやって返済するのですか」と何時間も粘られ、ついに「わかりました。今の仕事にアルバイトを加えて何日までに返済します」と債務者が押し切られてしまう。これは泡を食った結果、取立屋に債務者の心の虚を突かれた結果と言えるでしょう。
しかし、泡を食わされて相手の心を操縦する手法は何も取立屋に限りません。以前、ある人からこんなお話を聞きました。いわく「見知らぬ人から突然電話がかかってきて、その第一声が“おめでとうございます。現金百万円が当選しました”と言うものだったのです。そんなもの貰ういわれはないし、これは詐欺だと思ってすぐに電話を切ってしまったのですが」とのことです。
蓋(けだ)しそれは正しい判断でしょう。自分の身元もきちんと名乗らずに現金百万円をいきなり電話で通知するような胡散臭い相手とは関わるべきではありません。しかし世の中にはそれでも騙される人が後を絶ちません。ましてや借金で困っている際に「現金百万円が当選した」などと言われたらついころっと騙されてしまうかもしれないのです。これなどは嬉しい驚きで相手に泡を食わせる詐欺の一つだと言えます。
相手に泡を食わせ、自分の意のままに相手の心を操縦すると言うのは社会の多くの人が知っていることです。しかし相手に泡を食わせるような行動に出ると言うことは、この法治国家では相手を従わせるのに正当な理由がないと言うのと同義なのです。
例えばちんぴらやくざ。彼らは大した理由もないにも関わらず、因縁をふっかけてきます。人を脅します。借金取りと言うものも人を脅しますが、彼らの脅しは対象となる借金を負った相手にだけ有効です。借金取りが、道ばたを歩いている適当な人を捕まえて「借金を返しなさい」と言ったところで、言われた相手は何のことだかわからず、口をぽかんと開けてしまうことでしょう。しかし取立屋が債務者に証文を突きつけて「この借金どうするの? 返せるの? ええ?」と始まれば、普通の債務者ならばパニックになってしまうはずです。借金取りは借金を持っている対象にのみ強い力を発揮できるのです。
正当な理由があればあるほど人は冷静に物事を対処します。債務整理をしていてよく耳にする話としては「ちんぴらのような風体の取立屋よりも、まじめなサラリーマンのような感じの、スーツ姿で、すだれ頭で小太りでにこにこしている人の方がよっぽど怖い」などと言う話もあるほどです。脅したりすごんだりするより、理詰めで冷静に粘られる方が借金を持つ側としては辛いようなのです。
では、正当な理由がない借金取りとは何でしょうか。これは根拠のない借金のこと。最もわかりやすい例で言えばヤミ金が挙げられます。
ヤミ金と言うものは「ヤミ金」と言う言葉で括られているため、まるで悪どいけれども、必要悪として存在している金融屋であるかのように世間からは認知されています。しかし当所のような法律を扱う者からするとその定義は違います。
ヤミ金とは金融分野に足を突っ込んでいる詐欺師の一種です。これはヤミ金の債務者よりも、当のヤミ金自身の方がよっぽど熟知しています。彼らにはお金を貸す資格もなければ、取立てる権利もありません。逮捕されれば多額の罰金とかなりの期間の懲役が課されます。だからこそ彼らは電話口でのみ喚き散らし、怒鳴り散らし、挙句の果てには「刺す」だの「殺す」だのと物騒な言葉を用いて債務者の心を混乱に陥れるのです。取立てを行うのに正当な理由がない証拠です。
では、正規に登録している消費者金融はどうでしょう。彼らだってまったく相手を脅さないとは限りません。例えば債権者の中には法的にはグレーゾーンでも何時間でも粘り、ごね続け、債務者が根負けするまでねちねちと返済を促してくる者も珍しくはありません。これだって間接的な脅しと言えないこともないのです。
では、法律的に見て取立屋にやましいところはまったくないと言えるでしょうか。あります。これは例えば過払い金の問題です。借金を既に完済した元債務者が、完済分の借金を計算してみたところ多額の過払い金が発生していたと言う事例があったとしましょう。元債務者が過払い金の返還のため、消費者金融に電話をしてみたところ、それまで丁寧だったオペレーターの態度がにわかに豹変して「うちにはやましいところなど一切ありません!」とか「すべて弁護士にお任せしていますので、そちらを通して話をするように」などと居丈高な物言いになることがあります。
これなどは典型的な「やましいところ」があるパターン。喚いたり怒鳴ったりすることで何とか相手を尻込みさせようと威嚇を初めているのです。
そう考えてみると消費者金融にも正当な理由がなく、お金を騙しとっている部分もあるのです。借金問題と言うのはそもそも人と人との駆け引きが存在する分、線引きが曖昧なところが多いのです。このため、相手に泡を食わせるような行為が多く発生します。
ある人がにわかに「何とかこの人に泡を食わせよう」と言うような態度に出た場合、それは書割にすぎないと思っておきましょう。そうすれば例えばヤミ金に遭遇したとき、消費者金融が理不尽な態度に出たときなどでも、冷静に対処することができるはずです。