債務整理コラム

「急がば回れ」を忘れずに

お金がないときには、とかく「お金を手に入れたい」と言う意識だけが先立ちます。Tさんはイラストレーターの個人事業を行なっています。元々美大にいたくらいのTさんですから絵を描くのはとても得意。また周囲の人々も昔から「Tさんは絵が上手」と褒めてくれていました。

しかし、絵を描くと言うことと、ビジネスと言う分野において成功を収めると言うことは実は似て非なるものなのです。日本では昔から「一つの分野をこつこつと長く研鑽を積めば必ず成功を収められる」と言った通念があります。ある意味「ものつくりの国」にふさわしい考えではあります。しかし、お金を儲けられることと、良いものを作るのはやはり少し違うのです。Tさんはこの点に気づかず、イラストレーターを開業してしまいました。

初めのうちは「長くしっかり続けてゆけば、次第に評判も上がってくるだろう」とたかをくくっていたTさんでしたが、閑古鳥の鳴く毎日を過ごしていくうちに次第に心配になってきました。しかし、それでもどうアクションを起こしてゆけば良いのかわからないため、引き受ける仕事の単価を上げざるを得ません。この結果、数少ない顧客もさらに離れがちになってしまうと言う悪循環に。Tさんとしてはもうどうしたら良いのかわかりません。 そのうちに生活費も苦しくなってきて、Tさんはとうとう消費者金融から借金をせざるを得なくなりました。しかし、今度はその返済のためにお金を稼がねばなりません。それでもアルバイトなどをしてしまうと、今度は自分が何のためにイラストレーターをやっているのかも分からなくなってしまいます。

背に腹は代えられない。しかしイラスト以外で働くことは許されない。それでも返済日は近づいてくる。実利とプライドのはざまで苦悩したTさんは、思い切って原価に近い価格でお客さんを獲得することにしたのです。

結果は大成功。Tさんがかつて作成したサンプルを見せたところ「この価格で、ここまで作ってくれるのか」とお客さんたちは感心することしきり。Tさんとしてはお客さんが増えたことでほっと一安心と言う気持ちになりました。ところが一つの単価が極端に安いものを大量に生産しなければならないため、Tさんとしては、一つのイラストにかけられる時間も自然と少なくなってきてしまいます。とくに借金をしている場合、返済日が目の前にちらつくため、Tさんとしてもその胸の内では自ずと「より多く稼がなければ」と言う意識が働いていました。結果、作品の質はどうしても下がらざるを得なかったのです。

先に述べたようにお金を儲けることと、良いものを作ることは似て非なるものです。しかし逆はまさに真なり。質の悪いものを作ればお客さんは当たり前のように離れていってしまいます。Tさんが納品した手抜きのイラストを見て、褒めはしないものの、黙ってお金を払ってくれたお客さんはまだ良い方。逆に「こんなもの、誰が作れと言った」と怒鳴り散らして作り直しを命じるお客さんや、納品そのものを拒絶したお客さんなど、ほとんどの人がTさんから離れていってしまったのです。

Tさんとしては納品によって借金の返済を考えていたにも関わらず、あてが外れてしまいました。当然、消費者金融は激しい督促を始めます。しかしもう返済に宛てられるお金はありません。Tさんとしてはどうすれば良いのかわからず、パニックに陥ってしまいました。しかし、混乱の極みの中、ずっと仲良くしているTさんの友人が債務整理のアドバイスをしてくれたのです。

こうして当所はTさんの任意整理を行いました。Tさんは考えを改め、アルバイトをしながらも空いた時間でイラストレーターを続けると言う現状を送っています。

Tさんはある意味で気の毒な例とも言えます。しかし「安かろう・悪かろう」を行なってしまうと大変な面倒に関わらざるを得ません。Tさんが借金を返済できなかったわけはお金に目が眩んでしまったことが原因です。そもそもお金とは「人を喜ばせることで得られる対価」と言う側面を持っています。それにも関わらず、Tさんは質の高いサンプルを見せた挙句、張り子の虎のようなひどいものを納品しました。これではお客さんは喜んでくれません。当然、その対価も落ちてしまうのです。

お金はとても大切なものです。しかし、借金をしてしまうとお金の返済にばかり目が眩んでしまい、その根っこである「サービス」をおろそかにしてしまいがちです。

「急がば回れ」と言います。お金を得たいのであれば「なるべく人に喜んで貰う」ことをしっかりと考えなければなりません。

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